2013年6月28日金曜日

Vol.12 メガバイト女子とキロバイト異教徒の絵文字十年戦争


先日、可愛らしい女性2名(大人だがかなり年下)とLINEでグループトーク

(LINEやらない方はチャットみたいなものを想像してください)をしていたら、

私を除いた女性二人のやりとりがほとんど可愛いスタンプ(絵文字みたいなもの)

の応酬でビビりました。

ふたりが連打する小動物や赤パンツの齧歯目キャラは次々と私の画面を埋めていき、

テキストにも花やハートやニコニコ顔が大量にまぶされて、

音のないはずの世界に嬌声が響き渡る。可愛らしいスタンプに

「こ、これって子供用じゃなかったのか…!」と愕然としたり、

「ああ、いま若くなくてよかった…!」と胸を撫で下ろしたりしながら

ひざ蹴りスタンプなどで応酬して楽しく場を過ごしました。

しかし、私はちょっと前までこういった絵文字文化をたいへん忌々しく

思っていたのです。



私は携帯の絵文字が使えませんでした。

えー、あたしは絵文字もスタンプもバンバン使うけど…と言うそこの女、

うんこの絵文字やハゲおじさんのおもしろスタンプの話をしているのではありません。

ガラケー時代なら赤いハートや音符マーク、

キラキラ輝くおめめを持った小動物のデコメ絵文字、

そしてスマホならディズニーのお姫様やキャッキャと喜んでいる

可愛さ全開の女子スタンプを気軽に使えるか否かの話です。



かわいい絵文字やスタンプを前に思わず固まってしまう女。

一方それをなんのてらいもなく楽しく使える女。

その違いはなんでしょうか?



女子然と振る舞うことが苦手な女たちにとって、

絵文字機能がつくまでの携帯メールは電話よりもずっと優しいツールでした。

なぜなら文字だけで要件や自分の状態をフラットに伝えられるから。

一方、電話はメールに比べてたくさんの情報を相手に送ります。

例えば、言葉以上に伝わるのが「声色」という恐ろしい情報。

話の内容は愉快でも、声色が暗ければ相手には「愉快な話」として伝らず、

同じように、大した話でなくとも声色が憂いを帯びていれば

相手は必要以上にこちらを心配する。

そうやって、要件とは逆のメッセージさえ暗に伝えることができるのが電話です。

女子然と振る舞えない自意識の女たちにとって、

言外になにかを匂わす高等遊戯は過度の負荷でしかありません。



しかし、ある日どこかの誰かが携帯メールに余計な機能をつけました。

まず、文字色。次に絵文字。

そして女子然と振る舞うことになんの抵抗もないものたちの

可愛さへのあくなき追求は、ついに動くデコメまで携帯に搭載させました。

女子の看板を背負えない女にとって、これほどの苦行はありません。

だって文字色も絵文字もデコメも、すべては電話における声色と同義であり、

要件に加えて感情を相手に伝えうる機能。

それ以降、絵文字は「女の子は可愛いものが大好き」という教えを信じられない

異教徒を炙り出す踏み絵になりました。



携帯メールにおいて、テキストとは別に伝える感情でもっとも重要なのは

可愛らしさをベースにした喜怒哀楽です。

搭載された絵文字(特にデコメ)のキャラクターバリエーションを見れば、

それは一目瞭然でした。しかし、異教徒にとってはそれらが「可愛らしさ」を

ベースにしているからイチイチひるむ。

黒々しいテキストに可愛らしさをベースにした喜怒哀楽を纏わせることは、

ピンクのドレスを着るのと同じぐらい居心地が悪い。

女子メンタリティの関所で毎回脂汗を流す異教徒にとってこれは大きなダメージ!

だって可愛い絵文字を使うこと、それは自らを受容し、

相手にも承諾なしに受容を期待する行為なのですから。

異教徒にとっては、「女の子は基本的に愛される存在」という教えもまた、

己の経典には記載されていない教えなのです。



一方、絵文字をバンバン使えていたのはいちいち深く考えず、

愛されること(受容されること)に怯えない愛され女子たちでした。

彼女らは自らを可愛い存在として装飾することにまったく抵抗がありません。

その結果、文字面だけなら厚かましさがにじみ出るような要求は

絵文字で鮮やかに彩られ、男たちは文字面よりも意味深な絵文字に翻弄されました。

笑顔、ハート、泣き顔、星、ハイヒール、絵文字の登場で、

愛され女子たちは、いままで以上に願いをどんどん叶えていったのです!

例えば屁理屈こねない愛され女子は



「美味しいご飯が食べたいな」



というひとりごとのような文面の「ご飯」のあとにナイフとフォーク、

「食べたいな」のあとに目を輝かせてピコピコ動くパンダ(可愛い送信者を体現)

を入れることで、ひとりごとを一気に「叶えてあげなくてはいけない願い(要求)」に

昇華させます。

それはまさに猫なで声と同質の甘えであり、

他者から無条件で愛されることを前提にしたコミュニケーション。

そんなアンフェアなことはできない! 異教徒である私はギリギリと奥歯を噛みました。

…というか、恩恵にあずかれない私には世界はそういう風に見えていた。

そして携帯の絵文字は地獄の烙印図録でしかなかったのです。



たかが絵文字にそこまで? と思う方もいらっしゃるかもしれません。

しかし、自分を受容して可愛らしく飾ることは、自意識が肥大化した女にとって

大義名分がないと簡単には越えられないハードルなのです。

なんてったって信仰を変えるのですから。



「女の子は可愛いものが好き」「自分は他人に受容される存在である」

そんな教えを信じられず絵文字を使えない異教徒たちが

心に負荷をかけずメールで示せる感情はテンションの高さだけです。

そして異教徒の感情表現であるテンションの高さは、

主にエクスクラメーションマークで表されます。

愛され女子が



「お誕生日おめでとう」



の「お誕生日」のあとにケーキやロウソク、

「おめでとう」のあとにはしゃぐ小動物やキラキラ輝く星などを

大量にデコレーションする一方、可愛いさを付帯できない異教徒たちは



「お誕生日!!!!おめでとう!!!!!!!!」



とエクスクラメーションマークの数だけで、

如何に自分がこの慶事を祝っているかを表します。

愛され女子が何の迷いもなく



「おつかれさまです。仕事頑張ってね」



という文面に、汗水たらして応援している小動物や

フニフニ動くハートをポンポンと押す一方で、

愛されることに怯えた異教徒たちは



「おつかれさまです!!!!!仕事がんばってね!!!!!!!!!」



と「!!!」の連打で励ましを伝えるのです。

愛され女子は相手の回線や受信BOXの容量も気にせず

メガバイト級のデコメを送れます。だって自分は受容される存在だから。

一方、異教徒のメールはどんなにたくさんのエクスクラメーションマークを

付けても6KBぐらい。女の愛され度は送るメールの容量でわかるのではあるまいか?

メガバイト女子とキロバイト異教徒…。

書いていてだんだんみみっちい気持ちになってまいりました。



まぁ私はこんな風に絵文字文化を忌々しく思いながら

三十代の半分ぐらいを過ごしてきましたが

あるきっかけから自分を納得させる理由を手に入れ、

それからは気にせず適度に(自分の心が潰れない程度に)

可愛い絵文字を使うようになりました。



それまでの携帯メールでは、

余計な甘えを伝えないようフェアにやろうと思っていたら、

逆に隙がないことしか伝わっていませんでした。

丁寧に書けば書くほど、こぼれる感情は排除されて

普通に書いたメールを怒ってると思われた。

こんな悲しいことがあるでしょうか? あったあった。実際けっこうあった。

そしてある日、怒っているわけではないことを伝えたいが

テキストではふざけられない事態に遭遇した私は

破れかぶれで笑顔の絵文字を文末にくっつけました。

そうしたら、返信から相手の緊張が解けたことが伝わってきたのです。

ほほう…。可愛いことが苦手な女にとって、

可愛い絵文字は実はすごく便利なものでした。



それ以降、私は絵文字文化に寛容になりました。

メールの文面で悩みに悩み、

嗚呼、怒っていると思われたらどうしよう? 

冷たい人と思われたらどうしよう? 

とあれこれ悩んでいらん自虐ネタをふたつもみっつも放り込む前に、

笑顔の絵文字をポンとひとつ押す。

ちょう楽。相手もめんどくさくない。

慣れてからは大事な人にも笑顔やハートの絵文字が使えるようになり、

自分のなかの小さな女の子が少し肩の力を抜きました。

10年かかってようやく絵文字を便利と思えるようになった。

栗田穣崇(くりた・しげたか)さん、ほんとうにありがとうございます。



そして昨今、状況はもっと快適に。

LINEやカカオトークには相当ふざけたスタンプがたくさん初期設定されています。

金を出せばもっと不謹慎なスタンプが手に入ります。

可愛い絵文字、もしくは死を!の時代から考えれば夢のようです。

とはいえ異教徒にとっては、

気になる男性相手に照れ隠しのふざけスタンプ連打で辟易とされるなど、

以前にはなかったタイプの事故も予想されますから、

自制心を強く持って生きてくださいませ。

それよりほら、ポンと、かわいいの、押してみなってばウヒヒ。



6 件のコメント:

  1. わたしもキロバイト異教徒ですね。絵文字とか苦手です。デコメは使ったことがありません。

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  2. すごく同感しました。

    文章とは別にわざわざ絵文字を入れ込む、という面倒くささが、自分のメールをかわいくしたい、という欲求より強く、絵文字の意義を見出せずにずっと使っていませんでしたが、「絵文字=文章に感情をこめる」ツールとしてあまりにも一般化したので、やっと使うようになりました。

    といっても、相手が絵文字を使う人の場合のみですが…海賊女友達とは相変わらず文章のみのやりとりです(笑)

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  3. いつも更新楽しみにしています。
    タイトルのワクワク感すごいです。
    私も異教徒ですが、メガバイト女子(男子)の中でも嫌なのは、ちょっと不機嫌になるといきなり絵文字入れなくなる人です!!!!!
    異教徒は喜びだって悲しみだって文字のニュアンスだけで伝えようとしているのに!
    まじ怒りの時にドクロや雷を入れるメガバイト女子なら信用します。

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  4. かわいい暴力ってありますね。

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  5. 社会学の講義で教授が似たようなことを述べてました。
    LINEのスタンプは、言語化できない細かい感情までをも表しているそうです。

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  6. わはははは!
    私も「!!!!!!」多用者です!!!!!
    ていうか、携帯会社によってコードが違うから文字化けして相手から見えないとか、そういう理屈で絵文字を入れることがあまりできません。
    年寄りは機種依存文字に敏感なんです(;'∀')

    女子力の高い義姉が絵文字を多用しているので、それで私もおずおずと使い始められるようになりました(^◇^)

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